将を射んとすればまず猫を

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「キミ、それは何だね」
 面接官は不自然に膨らんだ学生の胸元を指した。
「これはその、あ、こら」
 学生が慌てて手を振ったはずみに一匹の猫がスーツから顔を出す。
「チロ!?」
 名を呼ばれた猫は社長のもとに駆け寄るとゴロゴロと喉を鳴らした。
「よかった。昨夜からいなくなってたんだ」
「社長の猫だったんですか……ここに来る途中でドブにはまっているのを見つけたんです」
「ありがとう! 君には感謝してもしきれないな」
「いえ、こういうの放っておけない性分なんです」
「ほう……」
 ちょろいもんだぜ、と学生はほくそ笑む。どうせ真っ当な方法じゃ受かりっこない。こっそり猫を連れ出した甲斐があったというものだ。
「一体どこに行ってたんだ、チロ」
 そう言うと社長は首輪を外した。
「GPSロガーですか」
 面接官に社長が頷く。
「これでばっちり足取りがわかる。ん? どうした、顔色が悪いようだが」
その他
公開:18/02/15 09:55
ショートショート10番勝負

uryusei( 東京 )

瓜生聖
ITmediaで記事を書いている兼業ライター

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