バレンタイン式一人時間差

1
212

「冗談よ。あなたにチョコなんて上げるわけないでしょ」
 彼女はリボン付きの包みを引っ込め、貰おうとした僕の手が宙を泳ぐ。
「僕は君の事が好きだよ」
 僕は泣いた。彼女は怯んで走り去り、それっきり卒業まで二人の接点はなく、僕らはそのまま違う県の大学に進学した。

***

 アパートの前の人物に息を飲む。
 彼女だ。
「久しぶり」
「元気そうだね。どうしたの?」
「ごめんなさい!」
 彼女は深々と頭を下げる。
「去年、私、あの……」
「もういいよ。罰ゲームかなんかだったんだろ? 動画でも撮ってさ。ネットには晒さなかったんだね。ありがと」
「違うの! 私、あの時……急に恥ずかしく、怖くなって、テンパって……」
「もう許すって。早く好きな人の所に行ったげなよ。今日はそういう日だろ」
「だから、来たの」
「……はい?」
 彼女の手には去年とは少し違うリボン付きの包み。
「私の、好きな人の所に」
 
恋愛
公開:18/02/13 18:23

木船田ヒロマル

カクヨム×B☆Wコラボコンテスト受賞作でデビュー。
「トリロバイタル・ライターズ」
Book☆Walker様より好評発売中!
https://bookwalker.jp/deabb9f916-ae70-429e-b373-9f173f177e24/

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容