儚く消え去るからこそ

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 儚く消え去るからこそ、美しく記録される歴史がある。ハワード・カーターによるツタンカーメン王墓発見の物語は、その代表例である。
 カーター卿がツタンカーメンの黄金に包まれた棺を開くと、ミイラの胸の前に、小さな花束が置かれていた。十九歳で死亡した少年王を追悼するために、妻であるアンケセナーメンが手向けたに違いない。
 王族も人間なのだ。何よりも心のこもった副葬品だ。
 カーター卿が感動に胸を打たれ、保存するために花束を取り出そうとすると、妻からの最後の贈り物は愛するツタンカーメンから離れることを拒否するかのように、もろくも崩れ去った。
 これで良かったのだ。
 当時のエジプト人の衛生環境を思い起こせば、花束と思われていたものは皮膚を食い破ってきたサナダムシと、そのサナダムシを食べにきた蛆虫とその成虫たちという可能性に至ったはずだから。
ファンタジー
公開:18/02/13 05:16
更新:18/02/13 05:28
ショートショート10番勝負

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