家の声

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家たちの声が聴こえないようになってからもうどれくらい経つだろうか。
十代半ばの数年間、私は彼らと話すことができていた。
家にも人格ならぬ家格(やかく)が個々で存在し、その性格は決まって慈愛に満ちているのだが、住人のそれと住んでいる期間とで変わってくるということだ。他にも火事の恐怖や台風と地震の耐え方、そして丁寧に住まれるとやはり嬉しいものよ、ということらしい。これは当時住んでいた一軒家が教えてくれたことだ。
家—因みに共同住宅の場合は一室だ—の声が聴こえるからと言って、特に事件が起こったという訳ではない。ただ家にも歴とした意識があって、私は思春期の頃に彼らの声を聴くことができていた、というそれだけの話だ。
こうして今はもう聴こえなくなったものの、それでも私は、すべての家たちが悠々と語っているのを確かに感じている。きっとその通りなんだろう。
私たちは、優しい家の声に包まれて暮らしているのだ。
ファンタジー
公開:18/02/13 20:20
更新:18/02/13 20:21
ショートショート十番勝負

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