光のどけき春の日に

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「こんなにのどかな春の日なのに、もう桜は散り始めているのだな」
 肩にかかった桜の花びらをつまむと、老刑事は桜の木を見上げた。楽しさも儚さも慶びも、そして死さえも受け入れる幽玄の美。足下には殺害現場を示す人型があった。
「容疑者は3人。被害者の同僚だった諸戸花。仕事のミスを押しつけられて恨んでいたそうです。それから元恋人の山川流。かなりの額を貢いでいたようです。最後に同人作家の久方静子。被害者に盗作されたと揉めたことがあります」
「なかなかに風流な犯人じゃないか。自己主張が過ぎる気もするがね」
 メモを読み上げる部下には見向きもせず、老刑事は淡々と答える。
「えっ、もう犯人が分かったんですか?」
「百人一首三十三番、紀友則の句を覚えているかね」
 慌ててスマートフォンで検索する部下を背に、老刑事は現場を後にした。
ミステリー・推理
公開:18/02/12 09:57
ショートショート10番勝負

uryusei( 東京 )

瓜生聖
ITmediaで記事を書いている兼業ライター

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