残酷な人

◎彼女の主張
「私たち別れよう。」
私はどうしても彼と別れたかった。それなのに彼は「嫌だ」「別れる理由がわからない」「ずっと君の傍にいたい」と、好き放題言ってきた。泣いて頼んでも駄目だった。
仕方がないから、私が折れるしかなかった。あなたの為を想って言ったのに、なんて酷い人。


◎彼氏の主張
病院から帰宅後、彼女から別れを告げられた。
まるで崖から突き落とされたかのような錯覚を得た僕は、咄嗟に「嫌だ」と言った。
別れる理由がわからないし、できるだけ彼女の傍に居たかった。彼女は泣いたが、泣きたいのは僕も同じだ。

1年後、闘病生活も終わり、彼女は此の世を先に去った。
結局最後まで一緒に居させてくれたが、別れ話を切り出されたあの日のことは今でも覚えている。
僕の為だと言ったあの日ほど、君を残酷な人だとは思わなかったよ。