ことばな

2
210

花は、口角を上げて言った。
「あたし、ことばなっていうの。知ってる?」

「ああ。」
老人ホームで祖父の荷物を片付けていた僕は適当に返事をした。

ことばなは話し相手として開発された、言葉を話す花だ。開いた花の中央に人間の口がついている。

よく見ると、こいつは、ことばなの中では群を抜いて美しい方だ。僕は自宅に鉢を持ち帰った。
「ありがとう」

「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえり」「おやすみ」それだけでも生活は一気に満ち足りた。

やがて、僕はことばなを花としてではなく人として愛するようになった。

ある日ことばなは、あげた水を吐き出してしまった。
「ごめんなさい。少し具合が悪いの」
よく見ると花弁の根元の茎が腫れている。

心配になって調べると、高齢者向けのことばなは去勢されていないことを知った。

「なあ、お前、もしかして…」

新しい命を宿したことばなは、口を固く結んでいた。
ホラー
公開:18/02/12 19:50
更新:18/02/26 16:49

ぱせりん( 中四国 )

北海道出身です。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容