人生の珍味

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「いいお店があるの」
 聡美に連れていかれたのは『道具の珍味』という居酒屋だった。どんな道具も利用者の思いが残留思念となって蓄積されるので、それを抽出して調理するのだという。
 メニューは「練馬の農家の包丁」とか利用者の情報まで載った道具の一覧だ。同じ包丁でも使い手で味が違うらしい。
 最初は誰にも利用されていないプレーンを試して見るといいと言われて、プレーンのまな板を頼んだ。透明なゼリーが出てきて味はなかった。
「今度はこれ」
 次に出てきたのはやさしいピンク色をしたゼリーだ。深いあじわいで、すごく美味しい。
「ここは持ちこみもOKで、それはあたしのまな板の味」
 そのひとことで聡美がどれだけ愛情を持って道具に接しているか察することができた。手放したくないと強く思う。

「おかあさん、ただいま」
 聡美が家に帰ると母親がすぐに出迎えた。
「あんた。あたしのまな板どこに持っていったの?」
その他
公開:18/02/12 18:46
更新:18/02/12 18:51

一田和樹( バンクーバー )

小説を書いています。
Amazon著者ページ https://t.co/ZrGUiK7HaJ 
公式サイト http://ichida-kazuki.com 
ツイッター @K_Ichida
使用している写真は全て私自身が撮影したか描いたものです。

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