才能の種

人は必ず一つ才能の種を持って生まれてくる。ただそれは本人が望んだ才能とは限らないし、気づかないまま一生を終える事もよくある。みんながみんな芽が出て花が咲く保証もない。
プロ野球選手や有名なアーティストのように、いち早くそれに気づいて努力の水をやり続けられる人間はごくわずかだ。

「そう言えば、わたしの才能の種はとうとう芽が出なかったわね。ふふ、まあ今さら花が咲いたところで困るだけだわねえ」
明日 九十歳の誕生日を迎える彼女は、いつものように床に就いた。
夫には先立たれ、子供たちは独立して家を出た。あとはもうお迎えを待つだけだ。それのどこにも不満はない。

しかし彼女は知らなかった。

五人の子供がそれぞれ幸せな家庭を築いている。そこまで立派に育てる事がどんなに素晴らしい才能かを。
そしてもう一つ。
明日の誕生日を子供たちとその家族がサプライズで祝い、彼女に満面の笑顔の花が咲く事を。