我らへの手向け

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周囲に響く悲鳴や断末魔が俺の頭の中で木霊する。悍ましい残響を振り払おうと、俺は土埃舞う戦場を銃を抱えて駆け抜け、物陰に隠れた。足元に転がっていた敵兵の、血塗れの遺体を見て唇を噛む。
——彼も、まだ逝きたくはなかったろう。せめて花でも手向けてやれたらいいのに。
そう思っていると突然、大雨が降り出す前触れのように辺りが暗くなる。出撃前の集会で天候が崩れそうだという報告は無かった。訝しむ俺の眼前に、はらりと一枚の花弁が舞い落ちる。天を仰ぐと、咲き乱れた花々が空を覆っているのが見えた。花は雨霰と戦場に降り注ぐ。兵士達は次々に戦いの手を止めてその光景を呆然と眺めた。花々は遺体をふうわりと優しく包み込み、最後の一輪が落ちた頃、見渡す限り花で埋め尽くされた戦場を、淡い光が柔く照らす。
「これで、あんたもよく眠れるかな」
俺が呟くと、花を纏った傍らの敵兵が薄く微笑んだ気がした。
ファンタジー
公開:18/02/12 14:45
更新:18/02/12 16:10

ほしのうみ

行き場をなくした文字の羅列たち。

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