プレゼント

「あのね、チョコレート、もらってくれる？」
　会社から帰ると、綾香が言った。
　結婚して初めてのバレンタイン。
「もちろん。うれしいな。付き合っているとき、くれなかったから、さびしかったんだ」
「実はがんばって作ってたんだけど、付き合いはじめだったから、手作りって重いかなって思って。でも、捨てることもできなくて」
「まだ、とってあるの？　じゃあ、それをもらうよ」
「実はそう言ってくれると思って、実家から持ってきたの。こっち」
　綾香は恥ずかしそうに身をよじって、和室を指差した。
　ふすまを開けると、そこには等身大の綾香の彫像があった。白い彫像からはチョコレートの甘い匂いが立ち上がる。
　綾香が恥ずかしがるのも道理で、チョコレートは何も身につけていなかった。