音の花

　初めてのピアノの発表会。私は緊張でガチガチだった。出番の直前に先生に「花を咲かせるように弾くのよ」と言われて、理解できないまま舞台に登壇した。客席に一礼してピアノに着席する。すうっと息を吸って私は弾き始めた。
　練習と同じようにと意識をすればするほど指が空回る。苦しくなっていた最中、先生に言われた言葉を思い出す。花を咲かせるように。一音一音が花開く様子を夢想した。和音が響けば小さな花束ができる。最後の音を弾き終わるころには辺りいっぱいに花が溢れているように感じた。客席から拍手が沸き起こった。
　演奏後に先生が私に花束を渡した。カラフルな花束はさっき演奏した曲にぴったりで私の音がこうして形になったのだと嬉しかった。
　家に帰って花瓶を探している間に、3歳の妹に花束を振り回されて花は散ってしまった。音楽は残らないって妹は知っていたのかな。少し残念だけど床に広がる花びらはまた可愛らしく思えた。