甘すぎる鈍器

とある日を境に変化したかは忘れてしまったが、愛情が形に見えるようになった。形に見える。つまり質量を持ったのだ。
母の手作り弁当には、大きな愛情が付いてきたりして、学生は重そうに鞄を持ったり。
口論になり、素っ気無い態度を取り合うカップルの目には、自分に向けられる愛が垣間見えていたり。
そんな愛情が質量を持ち、素直な人間が増えたこの社会で、ある事件が注目されていた。
それは、愛情による殺人だ。
どうやら重すぎる愛情に押し潰されて死んでしまうらしい。
こういった事件は全国各地で発生し、その多発性は交通事故や殺意による事件より多かった。
愛故に愛人を殺してしまうのは、余りに残酷だ。