0
234

 幼い頃、家に突然犬が来た。父親が会社でもらったらしい。当時の私は四足の動物が珍しく、家にいる間ずっと犬の観察を続けた。体も頭も小さいが耳と目だけは大きく、鳴き声も大きかった。バタバタと尻尾を振る犬を見ても可愛いと思えなかった。私は犬に触れることなく見つめ続けた。両親はそんな私を心配していたらしい。
 ある日、私は犬の鼻が濡れていることに気付いた。鼻を人差し指でそっと触って確かめる。次に自分の鼻の頭を触る。私のものはツルツルだ。また犬の鼻に触れる。それを繰り返す。私の行動を不思議そうに見つめていた犬が、私の手を押し退けて私の鼻を舐めた。触ると私の鼻も湿っていた。僅かに犬が得意気な表情をしていた。
 仕事が忙しく、久しぶりに実家に帰ってきた。玄関に迎えにくる犬は以前の元気はなかったが、出会った頃のように尻尾を振っていた。私は犬の鼻の頭を触れてみた。犬は微かに笑って、私の鼻を舐めた。
 
その他
公開:18/02/09 07:40

だんご( 石の下 )

だんごむしのだんごちゃん。まるくなって空を見つげる。
ツイッター @Fdng7

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容