器は焼いて仕舞うもの。

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器を焼くのに時間がかかる為、余り空腹は感じないものの食事を摂ることにした。ご丁寧に弁当が用意されている。
黙々と食べながら対面に座った母を見ると、疲労と安堵を混ぜ合わせたような表情を浮かべていた。
「お疲れ様。」と心の底から思っていた言葉を差し出すと、律儀な母は「晶子も、お疲れ様。」と返してくれた。
「長かったね。」
「そうねぇ。」
「お母さん、ずっと頑張ってたもんね。」
「別に、好きでやってただけよ。」
「あとどれくらいかな。」
「1時間もかからないんじゃない?」
お互い食事が終わっても時間が余った為、二人で施設の外へ出た。春の穏やかな風が、独特な匂いを運んでくる。
「良かったね。」
「うん?」
「きちんと、お別れできて。」
「…本当、それだけでも救われた気分よ。」
きっと、祖父の器から祖父の魂が離れていったあの日を思い浮かべているだろう母の隣で、私は煙突から流れゆく煙を眺めていた。
その他
公開:18/02/08 17:10

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