海老を剥く女

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「海老を剥いているんです」
仕方なく私はそう答えた。目の前の男はニイッと口元を歪めて笑う。
「実に美しい手です。どうか私に触ってくれませんか」
もううんざりだ。私のもとに男が通い始めて一年が経つ。
男の邪魔のせいで業績は落ち、調子が良いときは一日に七百海老剥けていたのが、今では五百海老程度だ。全く不甲斐ない。息を大きく吸い、ついに私は自分から言葉を投げつけた。
「私の手は海老を剥くためだけにあります。」
情けないことに声も震えた。男は私の手をじっと見つめると、「それもそうですね」とあっさり帰っていった。男は二度と私のもとへは来なかった。
あれから一年。私は海老だけを剥き続けている。今日も生臭い手の匂いが鼻腔に入り、私の頭をクラクラさせる。あの男に触れたらこの手は腐っていただろうか。
ふと机の上に横たわった海老と目が合う。海老の口がニイッと歪む。私はその海老をぐしゃぐしゃに潰して食べた。
その他
公開:18/02/08 02:54

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