孤独虫②

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いつの頃からか、私は父をひどく鬱陶しく思っていた。気づけば何年間もろくに会話もしていなかった。

息を切らせ、玄関の引き戸を開けると、縁側にはいつも通り父の影が見えた。しかし、それは父ではなく大量の虫の塊だった。

私は泣きながら必死に虫を払いのけた。
「お父さん、お父さん、ごめんなさい、ごめんなさい。」
しかし、そこに父の姿はなかった。

父が去った後、私はひとり、縁側のある小さな家で暮らしている。あの虫は寂しい人に取り付くのだ、いつか私もあの虫に食われて死ぬ。父の背中に初めてあの虫を見つけた時に、そっと潰しておけば良かった。

ふと見ると、私の右手にあの虫が這っている。払いのけようと左手を振り上げると、左手にも虫が這っていた。

ねえ、父さん、私の虫も取って欲しかったわ。
ファンタジー
公開:18/02/04 14:44

吉田吉( 千葉 )

田丸先生の講座を受講したことをきっかけに、ショートショートを書き始めました。表現するのは楽しいですね。末永く、書き続けていくのが今の目標です。
 

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