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私は店員の誘導に従い、店内に足を伸ばした。
ホールに入るとレトロ空間を強調した家具や照明が置かれ、レコード盤から流れるジャズの音が周囲の壁に反響し、耳元に返って来た。昔懐かしい純喫茶だった。揺れる火の明かりがユラユラとランプ越しに波打ち、薄暗い店内に大きな影絵を投影する。甘く香ばしいコーヒーの香りが鼻孔をくすぐり、私の食欲を促した。
素敵なお店ですね。
ありがとうございます。
店員は笑顔で返した。
マスターの趣味なんですよ。
カラン。
貫禄のある着物を着た女性が入って来た。
マスター、いる。
はい、少々お待ちください。
店員は奥へ引っ込み、白髪の男性を連れて帰って来た。
あなた、こんな店、もうやめて。あなたには似合わないわ。
しかしな。やっと軌道になったのだし。
何言っているの。このコーヒーだってまずくて飲めたものじゃないわ。どうせ、近くの沼水でも汲んできたのでしょ。
何故分かった。
その他
公開:18/02/02 11:33
更新:18/02/02 22:50

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