巡る世界

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「堅いですねえ」
 明日は引越しなのに、天井にねじ止めしたカーテン・レールが外れない。
 自分の力ではどうにもならないので管理人さんに助けを求めた。脚立の上に乗った管理人さんは、ドライバーを両手に握って奮闘している。その姿は、まるで天井から突き出た傘の柄にぶら下がるメアリー・ポピンズみたい。
 私は思わず吹き出してしまった。
「すいません。思い出し笑いしてしまって」
 思えば、はじめての一人暮らしで、不器用な私は、何か困ったことがある度にこの人に頼っていたっけ。
 それも今日が最後。そんな感慨にふけっていると、
「今、動きましたよね?」
 確かに、ドライバーの回転に合わせて部屋全体が左回りに回転したような……
「ねえ、こっちに来てみない?」
 促されるまま私は脚立に登り彼の腰にしがみついた。彼がもう一度思い切りねじを回すと、クルクル回る天井にぶら下がり、私たちはフワッと宙に舞い上がった。
ファンタジー
公開:18/01/28 17:56

ToshijiKawagoe( 北海道 )

・『SFマガジン』 2011年10月号「リーダーズ・ストーリィ」 掲載
・『公募ガイド』第22回小説の虎の穴、佳作
・ 樹立社ショートショートコンテスト2012、5等星
・ 第157回コバルト短編小説新人賞、もう一歩の作品
など、SF、ミステリ、童話、純文学など分野を問わず、ショートショートから短編、長編にとチャレンジしてきました。
 しばらくご無沙汰していましたが、最近復活しました。

ブログ http://rashi.cocolog-nifty.com/
 

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