君がいたはずの町で

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「私がお聞きしたいのは、君はなぜこの書店の数ある書物の中からこの本を選び、盗んだのかということです」

書店員は僕にそう言った。

何を得るかは問題じゃない。
この町から君が去ったこと、その喪失感に駆り立てられただけだ。

黙っている僕に書店員は呆れた様子で言った。
「今回の件は大事にはしませんから帰ってください。しかし忘れないで欲しい。君に選ばれなかった本のことを。選択は他のあらゆる可能性を殺します」

僕はその言葉を反芻しながら、君のいない町を歩いて帰る。

選ばなかった本。
見て見ぬ振りをした涙。

「仕方ないじゃないか」
そう吐き捨てたとき、信号が点滅し始めた。

立ち止まるか、走るか。
僕は<走る僕>を選択した。

しかしなぜ!
<走る僕>が今、僕の目の前を走る!

「選択は他のあらゆる可能性を殺します」
その言葉の意味はわかったけれど、<立ち止まったこの僕>はもう殺されていた。
その他
公開:18/01/17 14:58
更新:18/01/19 10:15

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