善意の傘

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当然の如く残業をこなし、電車に揺られ、最寄りに着いた。

「急に降ってきたな……」

駅舎を出た俺は独り言を漏らす。ゲリラ豪雨と鉢合わせたらしい。
健康のため駅から家までは歩いているが、今日は傘を持っていない。
バスかタクシーを、と思い翻った視界の隅にあるものを捉えた。

"善意の傘"

今日のような雨の日に借りることができる置き傘のことなのだが、この傘往々にして返されない。
落とした財布がそのまま返ってくる日本で、全く不思議なことだと思う。

「今日はこれ借りて、朝返しに来よう」

俺はそうはならないと決心し、傘の一本を手に取る。

すると、急に色々なことに腹が立ってきた。今日の残業に、年寄りに席を譲ったことや募金に入れた小銭にさえもだ。

「なるほど人の善意を奪う傘か。道理でみんな返さないわけだ」

きっと俺も返さないのだろう。
もちろん、このことを誰かに教えてやる気もさらさらない。
その他
公開:17/12/15 04:33

おかだ

大学生。楽しいことを思いつくと嬉しい。

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