優しいエレベーター

福利厚生の一環として、会社に新しくエレベーターが増設された。それに乗ると、今その人に一番必要な場所に連れて行ってくれる。
働き過ぎで疲れた人は南国のビーチへ、残業続きのシングルマザーなら娘が待つ保育園、といった具合に。
人工知能を備えており、励ましてもくれる。結果、社員のやる気が増し、業績は向上した。

新入社員が大きなミスをした。業務の細かい説明はしていなかったが、それぐらい言わなくても分かるだろうと大声で叱ると、俺の指導不足だと部長に大目玉を食らった。なんで俺が怒られなきゃならないんだ？こんな日は呑んで気晴らしをするに限る。
エレベーターに乗ると、途端にガタンとイヤな音がして電気が消えた。
慌てて非常ボタンを押す。
「すみません、故障したみたいなんですが」
するとエレベーターは言った。
「いえ、故障ではありません。今あなたに必要なのは気晴らしではなく、自分の落ち度を反省する時間です」