競蚊

「最近どうよ」
ビールのジョッキが似合う爽やかなコイツは、見た目とは裏腹に、ギャンブル中毒だ。学生時代からプラスチックの鞄には競馬新聞が入っていたのを覚えている。

僕はウーロン茶の氷をストローで混ぜながら答えた。
「僕は何にも変わった事はないよ。そっちこそ調子はどうだい」
「最近は競蚊が調子が良くてね」
「けいか？」
「お前まさか競蚊を知らないのか？」
「競蚊は聞いたことが無いな。ごめん。競馬、競輪、競艇くらいは知ってるんだけどね…」
「まあお前は昔から興味なかったもんな。もし有蚊記念買う時は声かけてよ。」
「有蚊記念があるんだ…」
「でも俺は競馬はさっぱりだったけど、競蚊は本当に儲かってるんだよ。地方競蚊にも行くから毎週のように利益が出るんだ。ただ酒飲んだりしたら全身が痒くなるんだよな。」

痒そうなそぶりを見せながら袖をまくった彼の左腕は、真冬だと言うのに、虫刺されの痕だらけだった。