漢字ドリル

「おたくの漢字ドリル？ 好調だそうで」
「ありがたいことに、おかげさまで業績も右肩上がりですよ」
高層ビルの一室。フォーマルな装いで、けれどもどこか余裕を感じさせる2人の男が語らう。
「ドリルに液晶パネルとは何事かと思ったが、本当に便利だ」
「工事現場の効率化のつもりだったのですが……」
「パネルに漢字を書く。するとその文字に合う形態や性質にドリルが変化する。現場に応じたドリルがこれ一つでと」
「『細』と書けば歯医者でも使えますし、『涼』なら扇風機にもなると一般の方からも問い合わせが殺到でして」
「うちの孫だと『柔』でおもちゃ代わりでね。ケガしないから安心して見ていられるよ」
「手書き対応にしたのも操作が簡単で良かったとご好評いただいております。ただ漢字の形や意味を知っていないと思った機能が使えなくて……」

「そこなんだよ。おかげで我が社の漢字ドリルは増刷が間に合わなくてね」