ナス休み

会社の新しい取り組みで、ボーナスを金銭ではなく、1ヶ月間の休みとして受け取ることができるという制度が始まった。
ボーナス休み、略して「ナス休み」と言う。

「良い制度だと思うな」
と僕は同僚たちに話したが、共感を得られなかった。
「俺はカネ無いとキツいっすわ」
「あたしも普通でいいかな」

結局制度を利用してナス休みを取ることにしたのは僕だけだったが、僕は夏のボーナスをナス休みに変えた。

1ヶ月間の仕事の引き継ぎを行い、ホワイトボードの自分の名前の後ろに「ナス休み」のマグネットを貼って、僕はナス休みに入った。

僕は列車に乗ってあてのない旅をした。実家に帰省し、古くからの友人に会い、のんびりと有意義な1ヶ月間を過ごした。


半年後の冬の日、会社に出勤するとそこには誰一人いなかった。

ホワイトボードを見ると僕以外の名前の後ろには「ナス休み」と書かれたマグネットがずらっと並んでいた。