空想世界への非常口

「最近、辛いなぁ…。」

会社の昼休みに手作りのお弁当を食べながら、私は思わず溜息をついた。すると、それを見ていた同僚が声をかけてきた。

「近頃、溜息が多いね…。辛くなったら我慢せずに非常口から逃げるんだよ？」

そう。最近、学校などの施設や会社のビルに、現実の厳しさに挫けそうになった時、空想の世界に逃げる事ができる非常口の設置が義務付けられたのだ。

普通の非常口と同じマークがついているのだが、色はピンクで少しメルヘンな雰囲気がある。
試験期間が近付いたり不景気の波が押し寄せた時なんかには、この非常口から逃げようとする人が殺到する事もあるらしい。

「明後日は年一回の避難訓練があるから、ちゃんと逃げられるように練習しておかなきゃね。」

私は笑いながら答えた。

押し合わずに避難しないと、空想の世界に避難する前に怪我をしてさらに現実に苦しむ事になってしまうから、注意が必要なのだ。