ただいまやかん

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上京して初めての冬。東京に木枯らし1号が吹いたというニュースが流れた日に、田舎の祖母からやかんが届いた。
手紙には「冬はこのやかんをコンロにかけておきなさい」とだけ書いてあった。
いまどき、やかんなんて邪魔!と思いながらもコンロ上に置いた。

翌日、だれもいない部屋に疲れて帰り「ただいま」とつぶやく。
するとやかんがピーと鳴った。
半信半疑でマグカップに注いでみると、実家でのんでいたほうじ茶が湯気を立ててでてきた。
それから一人暮らしの家に帰るのが楽しみになった。やかんに「ただいま」と声をかけるのは、実家でストーブの前にいた祖母に言っているように思えた。
どうやらこのやかん、帰宅後の「ただいま」にしか反応しないらしい。

最近は湯たんぽのために
寝る前に一度外に出かける。
すごく面倒だ。
でもこのやかんで作った湯たんぽは、祖母のひざの上で遊んでいた時の暖かさと安心感を与えてくれるのだ。
その他
公開:17/11/16 09:20

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