窓のない部屋

その日僕は転勤先で住むためのアパートを探していた。たまたま飛び込んだ不動産屋で紹介された部屋に行ってみるとその部屋には出入口のドア以外に窓がなかった。案内してくれた担当者がドアの横にあるボタンを押すと突然窓が出現した。いくつも出現した窓、それらには各々異なる風景が映し出されていた。その内の1つに手をかけて右へ動かすと窓が右へ移動した。上下左右好きな所に動かせるだけでなく大きさも変えられた。どの窓もそうだった。『これは便利ですね』と僕が言うと『便利なんですけどあまりたくさん開かないで下さいね。部屋が潰れちゃうので』と言われ、さらに続けてこう言われた。『天井に開くときは天気予報を見てやらないとゲリラ豪雨で部屋が水浸しになりますよ』
『これ、床にも開けるんですか？』僕が聞くと『それは止めた方がいいです。床に開いた窓は落とし穴じゃなくてブラックホールになるので2度と戻ってこれなくなりますよ』