春が来て君は

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ラジオから聞こえてきた天気予報によると、明日は吹雪になるらしい。
君は「ここで見る雪はこれが最後だね」なんておどけてみせたりしたが、すぐに気まずい静寂が訪れた。
夜が更けるにつれ風が強くなっていく。
明日なんか来ないよう、狭い部屋で身を寄せ合う二人は何度も願った。
静寂だけが二人を包んだ。

翌朝、残酷にも日は昇り、その瞬間はやってきた。
葉桜になりつつある並木道を走り去る汽車の上から、まだ幼い君が何か言おうとしていたが、風の音にかき消されてしまった。
私は君を直視することができなかった。

ある晴れた昼さがり、汽車は桜吹雪の中を走って行く。
荷台に子牛を乗せて。
その他
公開:18/04/02 19:03

TAMAUSA825( 東京と神奈川 )

登場することが趣味です。

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