四月朔日(わたぬき)

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僕は庭で綿入り袢纏を燃やしながら、登り立つ煙をぼんやりと眺めていた。
受験勉強という苦楽を共にした戦友の様な存在だったので燃やしたくは無かった。
しかし、送り主である祖母に、この袢纏は特別な綿で作らているので、必ず四月一日に燃やすように言われていたのだ。
仕方のない事だが戦友との別れに自然と目が潤む。

──最近は、四月馬鹿の方が有名になりましたねぇ。
──私には綿抜きの日、という方がしっくりきますけれど。

後ろから声がしたので振り返ると、品の良い小柄なお婆さんが立っていた。
誰だっけ?

「わた……何です?」

──ええ。四月朔日と書いてわたぬき。
──昔は四月一日に、綿の入った着物の綿を抜いて身を軽くしたんです。
──衣替えと言った方が若い人にはイメージし易いかしら?

──還して下さって、ありがとう。

彼女は深くお辞儀をすると、ふわりと浮いて、綿雲となり軽やかに空に還って行った。
ファンタジー
公開:18/04/01 22:38
更新:19/03/18 22:09

椿あやか( 猫町。 )

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