0
180

それは道に落ちていた。普通に、何気なく、ただそこに。
それは本来あるべきものではないが、通行を妨げうるものでもない。だから誰も気にしない。
気づいてはいるのだ。誰の目にも映らないなんて、そんなことはありえない。だけど人々には、興味がない、時間がない、あるいは義理がない。
利がないのは明らかだが、特段の不利もない。ならば目を背けさえすればいい。そのあとのことは知ったことではない。これが普通だ。
だから、普段の私だったらこんなことはしなかった。絶対にしなかっただろう。
少しだけ、自分を重ねてみたのかもしれない。自分と同様、哀れなそれに同情したのかもしれない。
そんなことを思いながら、私はそれを拾い上げる。

転がり続けて、へこみ、傷つき、ボロボロの空きカン。
伝わってくる冷たさはたちまち私の熱に消された。もう思い出せもしない。
ただそのザラザラとした感触だけが、今もこの手に残っていた。
その他
公開:18/04/01 16:43
更新:18/04/01 18:23

sakana

ショートショート好きです
学生やってます。

Twitter @n_ak_as

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容