桜業平

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いつも通る帰り道。
春になれば人で賑わう桜並木が終わろうとしたその時、どこかから泣く声が聞こえた。
あたりを見渡しても人影は見えず、その声が頭上から聞こえると気づいたのは、暫く経ってからだった。

男が、泣いていた。
男は風に飛ばされた洗濯物のように、桜の枝に引っ掛かって泣いていた。
普通であれば枝が耐えられない。
だからきっと、人ではないのだろう。
けれどモダンな装い以外、特に変わったところは見受けられなかった。

どうして泣いているのですか?
気づけば僕は、男に声をかけていた。
警戒心の強い僕らしくなく。
男は、人と離れるのが悲しいと答えた。
男は桜の世界の住人で、男のいる桜がこの世との繋ぎ目だという。
そしてその桜が、今年の春に切られるのだとも。
愛でられてこその花だと、男は哀しげに呟いた。


だったら――――
切られる前に、人を連れていけばいい。
僕の一言で、男の顔に桜が咲いた。
ホラー
公開:18/04/01 14:25

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