桜の樹の下には「桜の木の下」が埋まっている

桜の樹の下には「桜の木の下」が埋まっている！
これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くと信じることなんて、信じられないことじゃないか。

桜の季節に俺は奇妙だ。
毎年どうして俺はどうして爛漫と咲き乱れている桜の花ではなく、貪婪な蛸のような根のほうを見据えてしまうのか。なぜその根を見据えるたびに誰かにじっと見据えられるような視線を感じるのか？

その俺の奇行と妄想が俺を不安にさせ、憂鬱な気持にした。

しかし、「彼」は、いま、視点を変え、その意味を理解する。

桜の樹の下には「桜の木の下」が埋まっている！
いったいどこからか私を見ている彼の視線が、いまはまるで桜の樹と一つになって、俺のことをじっと見据えている。俺は「彼」と同方向に目を転じ、すっきりと事を理解した「彼」を確認する。

今こそ俺は、あの桜の樹の下の「彼」と同じ権利で桜を堪能することができる気がした。