旅葬

母の遺骨を海に撒いた。海が好きな人だった。瀬戸内海の小さな島から小さな骨になった母は旅立っていった。

ある日TVをぼんやり見ていると、ぎょっとするようなニュースが流れていた。
「東京湾で白骨遺体が打ち上げられているのが発見、警察が回収に向かったところ既に現場から消えていた」
私がそのニュースを忘れた頃、週間雑誌でこんな記事を見た。
「沖縄のエメラルドビーチで観光客が人骨を見つけ通報」
そしてニ週間後の新聞で。
「グレートバリアリーフで人骨が漂流しているのをダイバーが目撃」
これはオカルトなのか遺体遺棄事件なのか、はたまた誰かのいたずらなのか。一時期ネットでこの話は騒然となった。

一周忌に、私は母の故郷の海へ赴いた。静かな砂浜には標本のようにきれいに組み立てられた人骨が寝そべっていた。私はそっとその肩を撫でた。
「いってらっしゃい」
母はゆっくり潮に運ばれ、やがて見えなくなった。