綺麗吹雪

その、山奥に咲く桜は決して散らないという。

「桜の花はな、見る人が『綺麗』と思うと満足して花を散らすんだ。桜吹雪はな、綺麗と思った人の数が多かった証拠なんだよ」
村の長老が言った。
「だから、あの山奥に咲いている桜は決して散らない。誰の目にも触れないから。桜は一年中見事な花を咲かせているそうだ」

僕は、その桜を見てみたいと思った。春に咲いているのは当たり前。そこで、冬になってから行くことにした。

冬。雪道を桜を目指して歩いた。

突然、目の前が薄ピンクに光り出した。
桜だ。
本当に、その桜はあった。
雪をかぶりながら満開の花を咲かせていた。

「ああ」

あまりの美しさに言葉にならなかった。
次の瞬間。

桜は一気に花を散らし始めた。舞い落ちる花びらがまとわりつく。息苦しいほどに。まさに吹雪だ。

一瞬ですべての花を落とした桜は、
二度と花を咲かせることは無かった。