寒林抄

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 寒林を大きな生き物が歩んでゐる。
 生き物は長い鼻を持つてゐて、其の鼻を器用に遣い、未だ湯気の発つ、熱い血の滴る臓物を其の強い力で潰して仕舞はない様に優しく掴んでゐる。
 生き物は立ち止まると裸木の枝の一つに其の臓物を愛ほしむ様にゆつくり刺すと、今来た道を戻つて行つた。
 さうして生き物は、何処から其の臓物を持つて来るのか――抑抑何れの生き物の物なのか――寒林の中を何度も来ては戻りつ来ては戻りつして枝の一つ一つに臓物を刺して行つたのである。

 やがて寒林中が臙脂に染まると、生き物は力尽きて仕舞つたのか、其れとも眠る為か、其の大きな身体を自ら埋める様に蹲つて動かなくなつた。其の内に寒林は臙脂から夜紫へと染まり変はり、其れから亦暫く経つと仄かに煙が発ち始めた。
 
 木木達は全身に焔を纏ふと踊り始め、生き物は其の真ん中で――既に息絶へてゐたのか、黙した儘其の身は静かに燃えて行つた。
ファンタジー
公開:18/03/27 15:13

田中目八( 大阪 )

1978~。西成郡勝間村の人。単家、布衣の人。短時間労働者。即興演奏者。
俳句雑誌『奎』同人。
2022年イグBFC3優勝(同着)
https://twitter.com/ConchHailuo

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