魔法の目薬

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僕には父さんが居ない。3歳のとき、病気で死んでしまったからだ。幼き当時はそれが辛く「あいたい、あいたい」と泣いていた。
見兼ねた母は、よく「魔法の目薬」を差してくれた。 すると、ふわーっと父がやってきて、
「ほら、男の子は泣いちゃ駄目だぞ」
と高い高いをしてくれた。 僕はそれで泣き止んだ。
しかし人の悲しい性かな、成長と共に悲しみは薄れ、僕には目薬は必要無くなった。なにより、母を守る為に強くなると父に誓ったからだ。

数年後、成長した僕。
試験勉強の夜食を取りにリビングへ降りると母が座っていた。
影からみていると、母はすっと上を向き目薬を差す。
懐かしそうに微笑む母をみて、僕の胸はじんと熱くなる。母の頬を、再会の涙が伝う。
母はあれからも、父に定期的に会っていたようだ。そうして流した涙を、目薬の容器に上手に入れて蓋をしている。
あいたいの涙がある限り、目薬は枯渇しない。
その他
公開:18/03/25 08:47
更新:18/11/03 10:57

あおい( 北海道 )

結婚し、幸せになりを潜めて3年。
再び書きたくて登場。
多分そのうちまた消える。

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