私の国

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赤い屋根の古びた家。
砂利道。

母と喧嘩をするとよく家出をした。

家出先は100メートル程度。

3歳の女の子が家出をするには十分な距離だ。

ネジ式の玄関の扉を開け居間に入る。

パイプをふかしながら新聞を読んでいる祖父。
台所で食事を作る着物にエプロン姿の祖母。

家の奥に進む。
暗くひんやりとした部屋。

住人不在のまま時が流れた部屋。

不思議の国アリスの本。
こえだちゃんの木のおうち。
私の宝物。

ここは母が子どもの頃に使っていた部屋だ。

母と喧嘩をした私の秘密基地が母の子ども部屋というのはなんだか納得はいかないが、ここは私の国だった。



ーあれから38年。

今はもう何ももない。

だけど鮮明に思い出せる。

祖父のパイプから香る煙草の匂い。
祖母が作る食事の匂い。

モクモク煙る。
トントン音がする。
その他
公開:18/03/22 21:21
更新:20/09/19 07:41

天野花( 北海道 )

「たった40分で誰でも必ず小説が書ける超ショートショート講座」を読みながら、執筆活動を頑張り始めたところです。

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