AI指揮者

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 今度の指揮者はAIらしい。
 実力もない上に練習なんてロクにしない僕たちのようなクズ・オーケストラを立て直すためらしい。
 AIだから1音だって間違いを見逃さないのだろう。事実、練習を始めてすぐにダメ出しである。1時間近く練習しても数音以上には進まない。
「もう、やめだ、やめ!」
 誰かが席を立とうとした瞬間、AI指揮者は黒板を爪で引っ掻くような奇声を上げた。
 席に戻るとやっと静かになったが、僕たちがこの指揮者を満足させるような演奏ができる見込みなどなかった。
 それでも練習を続けていると、不思議と充実感を感じ始めるものだ。僕たちだって捨てたもんじゃないかも?そんな矢先。
「ハイ、OKデス」
 は? まだ完璧には程遠い演奏なのに? という疑問を口にする前に、AI指揮者は唐突に部屋を出ていった。
 みんな互いの顔を見合わせた。誰も帰ろうとはしなかった。
 僕たちはまた練習を始めた。
SF
公開:18/03/23 22:15
更新:18/03/23 22:34

ToshijiKawagoe( 北海道 )

・『SFマガジン』 2011年10月号「リーダーズ・ストーリィ」 掲載
・『公募ガイド』第22回小説の虎の穴、佳作
・ 樹立社ショートショートコンテスト2012、5等星
・ 第157回コバルト短編小説新人賞、もう一歩の作品
など、SF、ミステリ、童話、純文学など分野を問わず、ショートショートから短編、長編にとチャレンジしてきました。
 しばらくご無沙汰していましたが、最近復活しました。

ブログ http://rashi.cocolog-nifty.com/
 

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