さんさい

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 ずっと、ひとりだと思っていた。
 柔らかい木漏れ日と、風の運ぶ匂いだけ。それだけが、わたしのことを知っていると思っていた。
 あの日、あれが来るまで。
 あれはわたしを見つけると、大声で何か叫んだ。そして、わたしを抉るように持ち上げると、さっさとどこかにさらった。
 入れ物に入れられて、怖くて怖くて仕方がなかった。
 連れて来られたのは、見たこともない巨大な箱。わたしは乱暴に放り投げられて、大きな水槽に落ちた。
 苦しくてもがくと、素足に付いていた泥が落ちて、大きな網に救われた。
 今度は真っ白な紙の上に落とされる。周りには、同じ姿の仲間たち。

「きみも、ここにきたの?」
「かわいそうに」「かわいそうに」

 そう言う彼らとは裏腹に、わたしはやっと会えた仲間に嬉しさがこみ上げてきていた。
 わたしはつまみ上げられた。仲間たちの合唱が大きくなる。
 巨大な熱が、すぐそばで弾けていた。
ファンタジー
公開:18/03/21 22:28

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