0
190

とある幼稚園の入園式。
母親に連れられた元気な園児達が、次々と自分の教室に入っていく。

くま組、はと組、いるか組…

「いつまで泣いているの」

泣きじゃくる女の子を母親が嗜めている。

ゆり組に入りたかった女の子は、
諦めきれないのか、ゆり組の教室の前から動かない。

中からは濃厚な百合の花の匂いが届いてくる。

「あなたはゆり組じゃないでしょう。さぁ、自分のクラスに行くわよ」

そして教室に入ると、
歯をむき出しにした馬面の先生が歓迎の挨拶を始めた。

「ようこそ足の速い皆さん!これからお友達と一緒にたくさん学んで、お国のために頑張りましょう!」

あちこちで威勢の良い声が上がる中、女の子は泣き続けながら耳を伏せた。

長い睫毛に涙がこびりついて、瞬きがしにくい。

けれど涙を拭う手は、
もうそれほど器用ではなくなってしまった。

そのことが悲しくて、女の子はまた一つ涙を零した。
SF
公開:18/03/21 18:15
更新:18/03/22 03:13

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容