オトの鳥

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「オト、アウグストゥス様から一週間後にインコを使うお達しがあったからな、しっかり餌をやっておいてくれよ」
久しぶりの貴族からの依頼に上機嫌な父と対照的に、オトは表情を曇らせた。見つめる鳥小屋の中では、一羽のインコが止まり木の上で午後の日差しを浴びている。
「あと七日後……」
名をつけてはならない禁をこっそり破って、オトはインコをニイと呼んでいた。黄色くて丸い頭に透き通るような緑色の羽のニイ。こんなにかわいい小鳥を、なぜ大人たちは殺してしまうんだろう。いっそ小屋の扉を開けてニイを逃がしたい……。だがそんなことをすれば罪は一族に及ぶ。どうにもならない気持ちを抱えて、オトはその場にしゃがみこむしかなかった。

――古代ローマ帝国では決闘の前にインコを飛ばし、撃ち落とした側に武器の選択権が与えられた。これを『インコトスの儀式』という。スポーツの試合前の陣地決め等に用いられるコイントスの語源である。
その他
公開:18/03/22 01:35
更新:18/03/22 01:40

土地神( おふとんの中 )

星新一先生のような面白いショートショートを目指しています

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