破綻した悲しみ

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「君は、僕が死んでも泣いてくれないんだろうな」
 電話口から、冷たい言葉が飛び出してきた気がした。
 そうね、と相槌を打って、少し考えたけれど、私は彼がいなくなる事なんて、想像がつかなかった。
 命の終わりは、肉体が潰える時なのだろうか。それとも、忘れ去られた時?
 もしか彼の身体がなくなったら、私は悲しい、のだろうか。
 この優しい声も、会った時に触れるふわふわの髪も、全部無くなったら、どうなってしまうのだろう。
「ねえ」
「どうした?」
「あなたが死んだら、私、泣かないと思う」
「……どうして?」
 感触はここに残っている。笑顔も消えることはない。
 私は今の彼が好き。
 未来の彼でも、過去の彼でもない。今の彼が好き。
 ——未来の彼が死んだとしても、今の彼が残っていれば。
 破綻した考えを示した後、気が付いたら、私は泣いていた。
その他
公開:18/03/19 21:59

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