スピード感に憧れない

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早坂くんは隙がない。学年で一番勉強ができて、とりわけ数学が得意。おまけに学級委員長。はっきりとした顔立ちで、サッカーの練習風景を眺める女子たちが、少女漫画のようにほんとうにいる。まるで風みたいだと思った。

職員室に向かう途中、運んでいたノートの一冊が落ちた。私はそれを拾い上げる。すぐには誰のものかわからなかった。早坂くんのだった。名前はしっかりと書いてあるのだけれど、認識した文字と、頭の中の映像とがなかなか組み合わさってくれなかった。

「見た?」
ちょうど目の前の職員室から出てきた人は風だった。
「すこし」
私はそのままに答える。
「……と言いたいところだけど、わりとじっくり」
風が言う。
「きらいなんだよ」
自分の字。汚いって、姉にバカにされるから。

口を動かす早坂くんの表情に惹かれたのは、私の心が歪んでいるためではないと思う。彼は見せてくれたのだ。風が早坂くんになった日。
青春
公開:18/03/20 20:09
更新:18/04/08 22:06
小説 青春 学校 短編 ショートショート 400字物語 一話完結

yuna

400字のことばを紡ぎます。

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