第36話「夢に向き合う」

昨日の風呂場での会話を、葵が楽しげに話す。
「茜と翠にね、いつか、うちを改装してカフェをやりたいって言ったの。そしたらさ、茜は花屋もやれって言うし、翠はケーキ屋もやれって言うの。それで、手伝ってくれるのかって聞いたら、茜は小説家になる、翠は漫画家になるって。二人ともね、片手間に手伝う、なんて言うの。ね、頼もしいでしょ？　みんなあの家を出る気なんてないのよ。でね、匠には……」
「えっ俺？」
「男手とお金がいるからね。まずは匠のお店、ウチに誘致しようってなったの」
話すうち、葵の顔はだんだん上気する。俺は葵が愛しくなって、いいよ、と答えていた。
「でも一生、俺と離れられなくなるよ。いいのか？」
「悪いけど、とっくにそのつもり」
葵の言葉に少々戸惑いながら、俺は気持ちが引き締まる。葵は強いけど、弱いところもある。彼女たちの暗い過去も、これからの未来も背負っていく、その決心を、ついにする時が来た。