まほろばコーヒー

2
190

羊が一匹、カップの中へと飛び込んだ。
淹れたばかりだから熱いよ、という私の忠告を聞くことなく。
けれど意外にも、ふわふわした外見に似合わず熱い湯が好みだったようで、ホッと満足そうにため息をついて、少しだけ黒を薄めた。
羊が一匹、またカップの中へと飛び込んだ。
先客がいるから待ちなさい、という私の指示に従うことなく。
先程の羊が薄めたからか、二匹目は一匹目よりも長く湖畔を泳ぎ、そして同じように黒を薄めた。
私が頭を抱えていると、今度は白鳥の群れが飛来して、カップの中へと飛び込んだ。
私はあわててカップを手で覆う。
どうやらこのマグカップは大層住み心地がいいらしい。
一カップに一匹と決まっているのに、みんなこれに入りたがる。
棚の後ろでは猫が、机の下では蛇が、ガラスの向こうでは象までが虎視眈々と目を光らせている。
余りにも不利な状況に、私は儘よとカップを差し出した。

……意外にも美味である。
ファンタジー
公開:18/03/12 04:01

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容