定位置

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冬。ご主人様がホットワインを飲むのに使う耐熱グラスは、私の斜め左奥に居た。それなのに今はその場所に私が追いやられ、最前列に耐熱グラスが居る。

どうしてですか?二人で夜桜見物をしたじゃないですか。最近は、戸棚を開けても、ちらっとも私のことを見てくれませんね。
涙が出そうになるのをぐっとこらえて、静かに出番が来るのを待っていた。

正月。ようやくこの日がやってきた。お屠蘇を飲むために、ご主人様は戸棚から(あちこち探した後やっと見つけて)私を連れ出してくれた。久しぶりのご主人様のぬくもり。懐かしいお屠蘇の匂い。我慢していた涙が溢れ出た。

「嫌だ、このお猪口漏れてる」

しまった。慌てて涙を止めようとしたが止まらない。それどころか鼻水まで出てしまった。

「やだ~、びちょびちょ。もう、これじゃ使えないわね」

私は流し台に連れていかれ、そのまま放置された。

情けない。涙が溢れた。

ツーン。
公開:18/03/10 09:09
茶碗の気持ち

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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