一筋の雨と赤い海

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ほら、みてごらん。
空から一筋の水が降っているのが分かるだろう。あれが、雨だ。
空に貯まった水が、地上へと降り注いでいるんだよ。
ほら、みてごらん。
まるで生きているように赤く波打っているのが分かるだろう。あれが、海だ。
海はいつだって姿を変え、2度と同じ形をとることはないんだよ。

父親が指さしながら、幼子に物を教える。
けれど幼子は納得いかないようで、父親の説明に首をかしげた。
「でも、お父さん。お母さんは『雨は空一杯に降るもので、海は青い』って言ってたよ」
確かにそれは彼女の口癖だ。
父親は少しだけ残念そうに、幼子を抱き寄せた。
「空一杯の雨も美しい青い海も、母さんが懐かしそうに話す夜空に輝く星々や世界を染める夕日だって、ここでは見ることが出来ないんだ」
「どうして?無くなっちゃったの?」
「違うんだ、ここにはそんなものずっとないんだよ」


ここは、地底だからね。
SF
公開:18/03/10 03:09
更新:18/03/10 14:15

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