カメラの向こう

ねぇ見て。めっちゃかわいくない？
あ、ホントだー。かわいいー

学校帰りと思われる制服を着た二人組とすれ違う。
ひそひそ話しているつもりでもちゃんと聴こえる。

ねぇ、撮っちゃう？
良いんじゃない？

良くないでしょ？いくら私が可愛いからって盗撮はダメ。
撮らせてくださいって言えばいいのに、最近勝手に写真を撮る人が多くてシャッター音がうっとおしい。
まぁ、あなたたちにお願いされてもかわいく写る気はさらさらないですけどね。

「気にしないで。こっち向いて」
カメラの向こうの優しい声に反応して笑顔になる。
私にはこの人にだけ見せる特別な顔がある。
大好きの笑顔。
私は彼が好きで好きでたまらない。この笑顔も彼にしか写せないのだ。

「ほらね、僕が撮ると目がキラキラしてるでしょ」
デジカメの画像をチェックしながらそう言う彼の隣で、お友達が笑った。
「お前んちの犬、ホントにわっかりやすいのな」