新たな試練

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正月。なぜか晴れ着の引き出しにお猪口があった。見覚えがあるようなないような。不思議な気分だったが、お屠蘇を飲むのに使った。そして気に入ってしまった。口を付けるとなんだか温かみを感じる。愛さえ感じられるようなその感触に、このお猪口で毎日晩酌をすることにした。

その日からあたしは仕事から帰るとお猪口を相手にいろんな話をした。会社であったこと、通勤電車でのこと、そしてそろそろ桜が咲くこと、などなど。

お猪口は何も言わないけれど、耳を傾けてくれているのがわかる。あたしとお猪口の間には確かな愛情が通っていた。

桜が咲いた。夜桜見物をしながらお猪口を口に運ぶ。二人で桜見物だ。

夏になった。その夏は特に猛暑だった。あたしはあまりの暑さにコンビニでビールを手にした。

帰宅後、食器棚に向かう。
「夏はキンキンに冷えたビールだよね」お猪口の隣にあるグラスに手をのばした。


お猪口

がーん。
その他
公開:18/03/09 09:17
茶碗の気持ち

いづみ( 東京 )

文章を書くのが大好きです。

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